2004年8月24日火曜日

Chris

ゲイにとっての出会いはバーやインターネットだけじゃない。ゲイの多い街に住むと、ショッピング、ジム、図書館、美術館なんかでも出会いはあったりする。ぼくがこの青年に出会ったのは、ハロウィーン(10月30日)を数日後に控えた秋の週末だった。ゲイ・レズビアン・トランスジェンダー・トランスセクシュアルのための映画祭がその週、開催されていた。僕が観た映画は、「Under One Roof」という、サンフランシスコに母親と祖母と住むアジア系ゲイが、彼の家に居候することになった白人青年と恋に落ちるというもの。(なんてわかりやすいストーリー設定!それを一人で見に行く僕も僕ですが・・・)


Under One Roofの写真

映画のテーマからもおわかりのように、映画館は、アジア人好きのゲイと、アジア人ゲイでごった返してた。多分、400~500人くらいはいた。僕は一人、後ろかつ端の席に座って鑑賞したのだけど、二つ空席の向こうに、長身でハンサムな白人青年が一人座っていた。

映画自体はあきらかに低予算で、普通のホーム・ビデオ・カメラで取ったような質。ストーリーも演技もド素人。唯一のすくいは、白人青年役を演じる役者がかっこよかったことくらい。

映画が終わって、どんどん人が雪崩のように外に流れ出す中、一人で観に来ていたシングルは、他の映画のパンフレットが置かれているロビーなんかでぶらぶら。やはりこういう映画は、ゲイにとっての貴重な数少ない出会いの場なのだ。僕も特に面白くもない映画のチラシやパンフレットを所在無さげに物色したりしていた。そしたら僕の二座席向こうに座っていた青年が、ロビーの壁に寄りかかってこっちを見ている。こうみえても(どう見えてるかわかりませんが)シャイな僕。バーなんかでも他人に話し掛けることなんて100年経ってもありえない性格なのに、その日は観た映画がアジア人と白人ゲイの恋愛をテーマにしたものだったこともあって、思い切ってその青年に話かけたのでした。そしたら、彼も、僕に声をかけようと思ってたって言ってくれた。ラッキー。彼の名前はChris(クリス)。

ロビーでしばらく僕達は映画の話をしたのだけど、売れ残りのシングルが動物園のトラのように徘徊しているなか、彼らの視線がうっとうしくなってきたので、二人でバーに行くことにした。行ったバーは、この映画を見に来た人が、チケットの半券を見せると1ドリンク無料になる提携スポンサー。なので、このバーに到着したとき、同じ映画を見に来た人たちがすでに入っていた。そこは雰囲気の良いお店で、バーというよりもラウンジ風。ウッドフロアに、モダンなソファやチェアが配置された家具のショールームのような雰囲気。僕達もドリンクを頼んですわり心地抜群のレザー・チェアに陣取った。そしたら、同じ映画を観にきていた白人の中年二人組みが、僕らのほうを見て、「あの二人、映画に出てたカップルみたいにキュートじゃない?」って話しているのが聞こえてきた。僕は彼らに聞こえないように、Chrisに「あの二人、僕達のこと話してるよ」って言ったら、Chrisも、「僕も聞こえた」って僕にこそっと返してきた。度のきついアップル・マルティーニも手伝って、その晩、僕は雲の上を歩いているような気分に浸っていた。

アップル・マルティーニを半分のみ残し、Chrisと僕はディナーに。そのとき、Chrisは大学院で化学を専攻し、博士号を持っていること、そして今は特許に関する弁護士事務所で働きながら、夜間のロースクールにも通っていることなどを話してくれた。僕もアメリカイリノイ州の大学院で修士号を取ったことなんかを話したところ、実は、Chrisも同じ街出身で、大学院までそこに住んでいたということがわかった。なんという偶然。初めてであった人と、少しでも共通点があると、非常に嬉しいもの。

ディナーの後、その晩はChrisの友達がハロウィーン・パーティーを開くというので、一緒に行くことに。その前に、Chrisが着替えたいというので、Chrisの自宅に立ち寄った。そのとき、Chrisに会ってから、まだ4時間くらいしかたってなかった。

Chrisは博士号を持ってるし、弁護士事務所での仕事は羽振りがいいみたいで、こぎれいなマンションの13階に住んでいた。ホテルみたいな内装の部屋で、Chrisの几帳面な性格が手に取るようにわかるくらい家具や持ち物は趣味のいいもので取り揃えられ、統一感があった。Chrisは、まるでそこに僕がいないかのように着ていたカジュアルな洋服を手っ取り早く脱いでいき、黒のドレス・パンツに履き替え、よくプレスのあたったシャツに袖を通し、どんどんかっこよくなっていく。僕があまりにじっと見つめていたものだから、Chrisは、「Am I entertaining you?(見てて楽しい?)」って聞いてきた。僕はすかさず、「Yeah, it’s fun to watch you(うん、見てて楽しい)」って答えたけど、本当に、多分一日中Chrisを見ていても、僕は飽きなかったと思う。

ハロウィーン・パーティーは、これまたカッコいいファッションモデルみたいなゲイカップルが自宅で開いていた。このカップル、30代くらいで、一人はテレビ局のABCに勤務していた。自宅も、一等地にある一軒家で、モデル住宅かと思うくらい、家具類、内装、暖炉、壁に飾られた絵画など、完璧だった。僕達がそこについたとき、既に50人くらい(全員ゲイ)がドリンクを片手に思い思いに団欒していた。一瞬、そこはお洒落なゲイバーかと思うような風景。しかも、来ている人たちみんなお洒落でかっこよくって(99%が白人)、僕は、醜いアヒルの子が兄弟に対して抱いた劣等感そのままに、場違いなところに来てしまった気がして肩身が狭い思いだった。

パーティーでは、Chrisも友達を見つけ、二人それぞれ別の人たちと話をして時間を過ごしたけど、夜が更け人が減っていく中、いつのまにか、またChrisと二人で話をしていた。時間も夜の3時をまわっていたので、僕達も帰ることに。酔った頬に10月の夜風がピリリとくるなか、僕達は二人で夜の道を歩き始めた。でもその方角は、Chrisの自宅ではなく、僕のアパート。僕が「Are we going to my place?(僕の家に行ってる?)」って言うと、Chrisが「Is it OK?(行ってもいい?)」って聞いてきた。僕は何も答えないまま、二人、無言で夜の坂道を上っていく。

ベッドでのクリスは、「トロ」だった。身動き一つせず、ただそこに横たわっているだけ。僕も疲れていたし、何にもしないChrisに憤りも感じていたので、そのまま二人で眠りについた。

日がようやく昇り始めた早朝、Chrisはまた電話すると言い残して出て行った。もちろん、その後、Chrisから電話はなかった。その1週間後、ゲイバーでChrisとばったり鉢合わせ。既にChrisから電話はなかったし、もう脈はないなとわかっていた。1週間後に会ったChrisは違って見えた。僕が提供する話題にたいして、ことごとく、挑発的な発言を返してきた。例えば、ゲイのテレビ番組、「Queer as Folk」って面白いよねって僕が言ったら、「面白い?あんな低俗な番組を見てるの」っていう具合。僕は完全にむかついてきて、なにか言い返してやりたかったけど、もうその気力もなく、「じゃ、またね」って言って別れるだけが精一杯だった。

僕達が観た映画、「Under One Roof」では、アジア人が白人の青年をファックするシーンがある。Chrisと出会った日、彼が「It is unusual(普通は、逆だよね)」って言ったのに対して、僕が「Not always(必ずしもそうじゃないんじゃない)」って答えた短いやり取りが、その後、ずっと僕の頭にひっかかっていた。多分、この会話が、Chrisと僕がボタンを掛け違え始めたきっかけになっていたのだと思う。

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